学科シンポジウムで挙げられた"質問"と"回答"について

 9月8日に行われました「知的障害のある親の子育て支援」にご参加くださった皆様 

 当日はこのイベントに足をお運びいただき、誠にありがとうございました。主催者として心より感謝申し上げます。
 また、シンポジウムではたくさんのご質問を頂戴いたしました。このテーマに対する皆さまの熱い思い、関心の高さに大変驚き、またうれしく思っております。当日申し上げました通り、ご質問に対してのご回答をさせていただきたいと思っておりますが、非常に個別的な質問あるいはこの研究の範囲を超える質問も多くいただき、個々にお答えすることは難しいと思っています。
 今回は以下のご質問に対し、シンポジウムの企画を担当した田中がシンポジストの皆さんからのご意見をいただきながらまとめ、お応えさせていただくことでお許しいただきたいと思います。不足するところはこれからの研究の中でできる限りお応えしていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

・性教育について:シンポジウムでキャサリン氏がお答えしたように、子育て支援調査センターでは性教育のプログラムは行っておりません。オーストラリアにおける学校等での性教育の現状については本研究の範囲を現段階では超えており、ほかの研究に委ねたいと思います。ご了承ください。
 また日本の場合についても、今回ご登壇いただいた団体でも個別にあるいはプログラムを持って行うなど対応は異なっております。日本全国についてはオーストラリア同様本研究の範囲を現段階では超えており、お応えする立場にございません。大変申し訳ございませんが、ほかの研究を進めていきたいと思います。今後もご協力をお願い致します。
 なお、性教育を行ったとしても妊娠する場合はあり得ると思います。個々の細やかな実践の積み重ねの結果として起きている出来事についてはご理解をお願いします。

・潜在化している知的障害のある親を支援につなぐにはどうしたらいいか:潜在化はそれ自体が問題ではなく、必要な時に必要な支援が受けられればよいとおもいます。障害の有無に関係なく、子育て中の親が支援を受けやすい社会環境の整備があれば結果的に知的障害のある親も支援につながっていくと思います。個々の障害を顕在化するよりも、子どもを育てていて体験する生きにくさを解消することが重要で、まずは子育て支援全般の底上げが重要だと思います。同時に子育ての困難さの中に知的障害があるという認識、すなわち知的障害に対する手助けをすることで子育てが楽になる親がいるということを認識してほしいと思います。親の困難さを解消する子育て支援を徹底してほしいと思います。

・(健常な)親と知的障害のある人(親になっている場合もある)のかかわりについて:難しいです。親は親でしかできない支援をするしかないと思います。子どもの成長を見守ること、必要な時に手を差し伸べること、一緒に悩むこと(…私も親として日々悩んでいます)、ほかに何ができるでしょうか。
 支援者としては、親の存在が障害のある人の生きにくさにつながっている場合は距離を置くように支援します。大人になっても、親から経済的な虐待(搾取等)もあります。

・思春期の対応:これも難しいです。今回ワークショップでご紹介した「知的障害のある親の子育て支援」も幼少期7歳までの子どもを育てる親のプログラムしか作られていません。思春期についてもプログラムは必要かもしれませんが、同時に個別性の高い支援になるので、普遍的なものを作成することには課題があるかもしれません。
 勉強についてはボランティアを入れる、学習支援の場につなぐなども行われています。収入との関係もありますが、塾に行かせる場合もあります。

・システムによる虐待(具体例):例えば知的障害のある親に対し、保健師等がその困難をわかっていても時間及び人的資源の制約から障害のない親と同じ対応しかできない場合など、専門職個人に問題があるのではなく、本来必要な支援が受けられないようなシステムの状況をいっています。

・関わる職員への研修等:今のところそうしたものはないと思います。今回ワークショップでご紹介したものが一つだと思います。

・支援者と障害者のニーズが違うとき(困難点や必要なものの相違):基本的には、障害者の意思決定支援を徹底して行います。支援者が危機介入を行なわなければいけない時もありますが、まずは、障害者のニーズを中心に子育ての課題について取り組んでいくことが大切です。また、意思決定を支援する過程では、必要な情報提供や経験を積んだ上で判断してもらうことも必要で、そんな時に、障害者と支援者の価値観がぶつかり合うこともあります。時にはなかなか理解し合えず、障害者が窮屈になって支援を飛び出してしまうこともあります。あるいは支援者側がその在り方を見つめなおし、新しい試みを行うことがあります(今回の結婚支援もそのような結果出来上がった例もありました)。長い人生の中で葛藤やぶつかり合いを経て、お互いが支援を考え直していくこともあります。

・その他(成年後見制度、出生前診断・触法関係・虐待等):貴重なご意見を頂戴しました。本研究のテーマとつながっていく重要な点ではございますが、今回のシンポジウムの範囲を超えておりますので、ここでのお答えは遠慮させてください。

 今回ご紹介させていただきました団体の支援はそれぞれが非常に素晴らしいものでありますが、同時に皆さまの身近にある団体ではまた異なった素晴らしい実践が展開されているかもしれません。私という研究者が知らないだけなのかもしれません。どうぞ関心を持って地域にある支援を見つめてください。あるいはもしないなら、つくっていきましょう。ご協力できることがあればぜひお声がけください。微力ながら誠心誠意お応えしていきたいと思います。

教育福祉学科 准教授 田中 恵美子

   
     
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