手指関節可動域に対するパラフィン療法の即時効果:N-of-1研究による検証
- 概要
東京家政大学リハビリテーション学科の斎藤和夫,埼玉県立大学の鈴木誠,鈴木貴子,湘南医療大学の松本卓也,荻窪病院の長谷川夏美,山中美季らの共同研究グループは,手指の関節拘縮に対する「パラフィン療法」と「水治療法」の即時的な効果を比較検証しました.本研究では,単一ケース実験計画法(N-of-1研究)を採用し,水治療法にパラフィン療法を追加することで,関節可動域(ROM)に有意な追加的改善が得られることを明らかにしました.本成果は,ハンドセラピィ分野の専門誌「Hand Therapy」に2026年5月8日に掲載されました.
- 研究の背景と目的
手指の術後や外傷後の関節拘縮は,可動域制限や痛みを引き起こし,日常生活に大きな支障をきたす一般的な課題です.早期リハビリテーションでは,温熱療法としてパラフィン療法や水治療法が広く用いられていますが,これら2つの手法が手指の関節拘縮に与える「即時的な効果」を直接比較したエビデンスはこれまで限られていました.
また,従来の研究の多くはグループ間比較であり,個々の患者における治療反応性の違いを十分に評価できていないという課題がありました.そこで本研究では,同一の参加者内でパラフィン療法と水治療法の即時効果を個別に比較・検証することを目的としました.
- 研究手法
本研究は,術後または外傷後に手指関節拘縮を呈した外来患者3名を対象に,N-of-1研究のABデザインにより実施しました.
まずフェーズA(対照条件)として,対象指を38℃の温水に10分間浸漬する水治療法を行いました.続くフェーズB(介入条件)では,約55℃のパラフィンを10分間適用するパラフィン療法を実施しました.いずれの条件においても,温熱負荷の直後に5分間の徒手療法(自動可動域運動および他動的関節モビライゼーション)を併用しました.
評価指標として,各セッションの直後に,ゴニオメーターを用いて対象指のMP,PIP,DIP関節における自動屈曲および伸展角度を測定しました.各フェーズはそれぞれ別日に4回ずつ,計8セッションにわたって実施し,詳細な時系列データを収集しました.データ解析にはローカル線形トレンド(LLT)モデルを用い,セッションごとの動的な状態値を推定しました.介入効果の判定には非重複データ割合(PND)を用い,PNDが70%以上の場合を「臨床的に有意な介入効果あり」とみなしました.
- 研究の成果
すべての参加者において,両フェーズを通じた関節可動域全体の向上が認められました.さらにローカル線形トレンドモデルによる解析の結果,フェーズA(水治療法)のデータから予測される状態値と比較して,フェーズB(パラフィン療法)の実施後には関節可動域にさらなる追加的な改善が見られることが明らかになりました.
特に,PIP関節およびDIP関節の伸展方向における改善が顕著であり,多くの関節でPNDが70%を超え,臨床的に有意な介入効果が確認されました.一方で,症例3に見られたMP関節やPIP関節の屈曲制限など,関節内の癒着が疑われる重度の制限に対しては,パラフィン療法の追加効果が限定的であることも示されました.
- 臨床的意義
本研究の結果,水治療法に加えてパラフィン療法を導入することで,特に伸展制限を伴う手指関節拘縮に対して有意な追加的改善をもたらす可能性が示されました.本研究で用いた「N-of-1デザインとローカル線形トレンドモデル解析」の組み合わせは,個々の患者の治療反応性を客観的に可視化できるため,パーソナライズされたデータ駆動型の臨床的意思決定(Precision Rehabilitation)を推進するための有用な手段となります.
- 発表雑誌
雑誌名:Hand Therapy
論文タイトル:Immediate effects of paraffin therapy on finger range of motion: A replicated N-of-1 study
著者:斎藤和夫, 鈴木誠, 松本卓也, 鈴木貴子, 長谷川夏美, 山中美季
研究グループ:東京家政大学 健康科学部 リハビリテーション学科,埼玉県立大学保健医療福祉学部作業療法学科,湘南医療大学保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻,荻窪病院リハビリテーション科
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42109750/
研究助成:日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI 24K14360)
- 本件に関するお問い合わせ先
斎藤 和夫
東京家政大学 健康科学部 リハビリテーション学科
〒350-1398 埼玉県狭山市稲荷山2-15-1
TEL:04-2952-1621(内線468)
E-mail:saito-kaz@tokyo-kasei.ac.jp






