VRと視線計測ベースのフィードバックシステムの統合がリハビリテーション観察スキルを向上させる
- 概要
東京家政大学リハビリテーション学科の斎藤和夫、磯直樹,趙吉春,岡部拓大,埼玉県立大学の鈴木誠、湘南医療大学の松本卓也、東京都立大学の山本淳一らの研究グループは、バーチャルリアリティ(VR)と視線計測(アイトラッキング)技術を統合し、リハビリテーションにおける観察スキルを客観的に測定し、教育するためのシステムを開発しました。本研究では、このシステムを用いたデータ主導型のフィードバックが、初学者の観察スキルを熟練者レベルまで効果的に向上させることを明らかにしました。本研究の成果は、リハビリテーション分野の専門誌「Frontiers in Rehabilitation Sciences」に2026年5月7日に公表されました。
- 研究の背景
リハビリテーション教育は、伝統的に熟練者の背中を見て学ぶ「徒弟制度」モデルに依存してきました。特に、患者のわずかな動きから異常を検知する観察スキルは、熟練者の「暗黙知」に頼る部分が大きく、客観的な評価や標準化された教育が困難であるという課題がありました。熟練した臨床家は、課題に関連する重要な部位(骨盤や膝など)を効率的に注視する「専門的な視線走査戦略」を持っていますが、これを初学者に伝えることは容易ではありません。
近年のICT技術の発展により、VR技術が没入型で安全な体験型学習ツールとして注目されています。VRは患者をリスクにさらすことなく、臨床現場を再現した環境での反復学習を可能にします。研究グループは、VRと視線計測を組み合わせることで、熟練者の「目」が捉えている情報を可視化し、初学者へ効果的に伝達できるのではないかと考えました。
- 研究の成果
3.1. 熟練者の視線走査パターンの特定
まず、臨床経験10年以上の熟練作業療法士4名を対象に、右片麻痺患者の座位リーチング動作(VR動画)を観察した際の視線を計測しました。熟練者の視線走査は、4名ともに広範囲の身体部位をカバーするパターンであることが確認されました。
3.2. 初学者の観察行動の変化
次に、理学療法・作業療法専攻の学生4名を対象に、シングルケース・マルチベースラインデザインを用いて教育介入を実施しました。ベースラインでは初学者の視線は患者の上半身に集中していましたが、熟練者の視線ヒートマップと詳細な言語的解説を組み合わせたフィードバック介入(20分間)を行った結果、全ての参加者において視線探索の範囲が拡大し、熟練者のパターンに近づく介入効果が認められました。
3.3. 教育効果の持続性と心理的影響
この学習効果は、介入の1ヶ月後においても維持されており、スキルの持続的な向上が示されました。また、介入前後で参加者の自己効力感(自信)が上昇し、VRトレーニングの有用性と社会的妥当性についても高い評価が得られました。
- 研究の意義
本研究は、データ主導型のフィードバック教育が、リハビリテーションにおける高度な観察スキルの習得に有効であることを科学的に証明した初めての成果です。これは、長年の課題であったリハビリテーション教育における暗黙知の依存を解消し、客観的かつ標準化された学習アプローチを提供するものです。
- 今後の展開
今後は、性別、専門分野、臨床経験などの異なる多様な学習者を対象に、本システムの汎用性を検証します。また、より多くの熟練者のデータを収集し、次世代の個別最適化された臨床教育システムの構築を目指します。
- 発表雑誌
雑誌名:Frontiers in Rehabilitation Sciences
論文タイトル:Integration of virtual reality and eye-tracking-based feedback system improves rehabilitation observation skills
著者:斎藤和夫,鈴木誠,磯直樹,趙吉春,岡部拓大,松本卓也,山本淳一
研究グループ:東京家政大学 健康科学部 リハビリテーション学科,埼玉県立大学保健医療福祉学部作業療法学科,湘南医療大学保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻,東京都立大学システムデザイン学部
DOI:10.3389/fresc.2026.1775722
URL:https://www.frontiersin.org/journals/rehabilitation-sciences/articles/10.3389/fresc.2026.1775722/full
研究助成:日本学術振興会 科学研究費助成事業(24K14360)、JST [ムーンショット型研究開発事業] [JPMJMS2034]
- 本件に関するお問い合わせ先
斎藤和夫
東京家政大学 健康科学部 リハビリテーション学科
〒350-1398 埼玉県狭山市稲荷山2-15-1
TEL:04-2952-1621(内線468)
E-mail: saito-kaz@tokyo-kasei.ac.jp






