社会デザイン連続講座 第4回
「沿線まるごとホテル」が取り組む、地域活性化への挑戦
社会デザイン学環では、導入教育の一環で「社会デザイン連続講座」と題して、実践家に出会い、実践にふれ、社会課題やこれからの自分自身の進路・仕事を考える企画をおこなっています。
10月10日(土)に、「社会デザイン連続講座」を開催しました。第4回目となる今回は、JR東日本の関連会社である「沿線まるごと株式会社」で地域開発・コンサルティングを担うディレクターの大野達也氏をお迎えし、「沿線まるごとホテル」の取り組みについて伺いました。
辺境から革命を!地域の名もなき風景を、沿線の未来につなぐ
大野氏はJR東日本に入社後、駅員、中央線の車掌、青梅線等での運転士を経験され、青森への出向期間中に「シードル(スパークリング酒)」の製造事業に携わたのをきっかけに、「シードルアンバサダー」資格も取得されたそうです。規格外として捨てられてしまうリンゴをなんとか活かせないかと、不用資源に新たな価値を与えた「アップサイクル」で「シードル」を作り、地域活性化に関わってきたことが、その後の活動につながってきたと言います。きっかけは、「無人駅」。過疎高齢化、人口減少の地域で、観光で売っていく観光路線化として「東京アドベンチャーライン」の事業に取り組みます。
この路線の活用から始まり、長い期間をかけて、地域住民と共に課題解決する事業、沿線まるごとホテルの事業に取り組み始めていきます。

プロジェクト立ち上げの背景と奥多摩町の現状
舞台となるJR青梅線(青梅〜奥多摩間「東京アドベンチャーライン」)は、13駅中11駅が無人駅という赤字路線でした。
かつてダム建設や林業で賑わった奥多摩町も、産業の衰退に伴い人口が1万5,000人から4,500人未満へと急減し、限界集落化が進んでいます。
JR東日本は2018年に同区間を観光路線へ方針転換し、イベントなどを開催してきましたが、一時的なイベント集客には持続性に限界がありました。そこで、「1回のイベントで1万人を集める」のではなく、「100人のファンが100回通う地域づくり」を目指す構想が浮上します。先行事例として、株式会社さとゆめが山梨県小菅村で展開する分散型ホテル「村まるごとホテル」のノウハウを鉄道沿線へ応用し、2021年に共同出資会社「沿線まるごと株式会社」を無人駅である鳩ノ巣駅内に設立しました。
「沿線まるごとホテル」の仕組みと3つの大きな特徴
本プロジェクトでは、地域全体を一つのホテルに見立てる「分散型ホテル」の概念*を導入しています。
例えば、無人駅をホテルの「フロント」と見立ててお客様に特別なチェックイン体験をしてもらったり、地域の空き家(古民家)をリノベーションし、ホテルの「客室」として活用しています。
地域住民をホテルの「キャスト(おもてなしスタッフ)」として起用し、地元の高齢者らが「キャスト」として駅のホームで出迎えるサービスは他にはない特別なおもてなしです。洗練されたサービスとはまた一味違った温かいおもてなしは、全国のお客さんからも大好評なのだそうです。このような取り組みは、奥多摩町が顧客にとっての「第二のふるさと」となることにもつながり、多様な関係人口の創出につながっています。
また、移動手段である「電車」をホテルのエレベーターに見立て、到着時刻に合わせた特別な車内演出アナウンスを行うなど、鉄道会社ならではの体験価値を提供しています。
その他にも、事業化へのプロセスを図式化した「6レイヤーモデル」や、全国・他沿線への横展開の事例についてもわかりやすく解説していただきました。
A駅、B駅、C駅ー、ちがう駅で降りると、体験価値がちがう!
今回は、観光周遊を生み出す仕組みを教えてもらいました。
里とつなぐ、物語。satologue 行ってみたくなりました。
https://satologue.com/
大野さん、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

以下、学生からの質問とその回答を、一部抜粋してご紹介します。
Q1:質問なのですが、先ほど「沿線まるごとパスポート」のクーポンへのこだわりについてお話がありましたが、サービス面で他に一番こだわっているポイントはどこですか?
A1:特にこだわっているのは、やはり「地域の方々がホテルのキャストになる」という点です。宿泊施設に泊まって、地元に40年・50年住んでいるおじいちゃんやおばあちゃんが出迎えてくれるという体験は他にはなかなかありません。そこが私たちの提供する一番の価値だと思っています。
Q2:旅行というと有名な観光地に行ってホテルに泊まるのが一般的ですが、ホテルに行ってから地域の観光が始まるというスタイルが面白いと思いました。自分でノープランで行っても楽しめそうです。ターゲット層はどのような方を想定されていますか?
A2:アクティブに観光地を巡る旅とは少し違い、旅に「テーマ」や「静けさ」を求める方をターゲットにしています。具体的には、子育てが一段落した40代・50代以降のご夫婦などを設定しています。都心から近く、静かな空間で地域のストーリーや文化に触れたいというニーズにしっかり応える設計にしています。
Q3:奥多摩には時々行くのですが、無人駅がそのような施設になっているとは知りませんでした。地域住民の方々をキャストとして巻き込むための説得や交渉にはどれくらい時間がかかりましたか?
A3:そこは本当に一番苦労した点です。開業の半年前から地域に入り、自治会や社会福祉協議会、観光協会などにご相談に伺いましたが、最初はなかなか人材が集まりませんでした。最終的には地元のガイド団体(地域振興財団)の方々にご協力いただく形となり、そこから地域のおじいちゃん達が送迎やご案内を担当してくれるようになりました。地域を巻き込むプロセスは大変ですが、同時に一番やりがいのある部分でもあります。
*注...イタリアで「アルベルゴ・ディフーゾ」として広まり、日本でも例えば岡山県矢掛町の「町ごとホテル」など、地域を「受付」「宿泊」「風呂」「食事」「お土産屋」などに見立て取り組まれている。






