文化情報学環

深掘り!文化情報学環 【学びと社会編】vol.3

 

深掘り!文化情報学環 【学びと社会編】vol.3

vol.3

仲間づくりからはじまる仕事

「社会学概論」担当 岩田庄平先生インタビュー

2026年4月に開設された文化情報学環が目指すのは、あふれる情報から自ら問いを立て、新たな価値を生み出せる人を育てること。その学びの土台となるのが、社会や人の心の動きを理解する「社会学」の視点です。
今回は、1年次にその社会学の入り口となる『社会学概論』を担当する岩田庄平先生に、「伝える」仕事と、学生時代に大切にしてほしいことをお聞きしました。

(「社会学概論」担当 岩田庄平先生)

プロフィール

岩田 庄平先生。トヨタグループで、ソフトウェア開発に強みを持つグローバル企業「ウーブン・バイ・トヨタ株式会社」で、実証実験の街「Toyota Woven City(トヨタ・ウーブン・シティ)」(静岡県裾野市)のコミュニケーション・広報を担当。2026年4月より東京家政大学非常勤講師として、文化情報学環で『社会学概論(1年前期)』『現代社会論(1年後期)』を教えている。

「伝える」仕事は、仲間づくり

Q. 会社では、どんなお仕事をされていますか?

「Toyota Woven City(トヨタ・ウーブン・シティ)、(以下、Woven City)」というプロジェクトを中心に、コミュニケーション領域の広報を担当しています。Woven Cityは、トヨタ自動車東日本株式会社の東富士工場の跡地につくられた、「未来の当たり前」を発明するための街の形をしたテストコース。単に技術だけを詰め込んだスマートシティや、SFの世界のような街づくりを目指すのではなく、そこに住んだり訪れたりする人々(Weavers/ウィーバーズ)に開発中のプロダクトやサービスを実際に使ってもらい、その本音や使い心地(フィードバック)をダイレクトに取り入れながら、発明家(Inventors/インベンターズ)が一緒になってプロダクトを磨き上げていく、未完成の街なんです。

広報の仕事は、プレスリリースを書いたり、メディア向けのイベントを行ったりもしますが、究極のところは「仲間づくり」だと思っています。工事などで周辺の方にご迷惑をおかけする場面もあるので、地域のイベントに参加してWoven Cityのことを正しく理解していただいたり、地元の小・中・高校へ出前授業に行ったりもします。プロジェクトを応援してくれる仲間を増やしていく、縁の下の力持ちのような仕事です。

Q. なぜ、「伝える」仕事を選んだのですか?

どれだけすごい技術やおもしろいアイデアがあっても、正しく伝わらなければ、すごくもったいない。ずっとそう思ってきたからです。ルーツをたどると、父が映像をつくるテレビマンで、「何かを届ける」ことには小さい頃から触れていました。

中高の陸上部や文化祭、大学のゼミでは、みんなが同じ方向を向けるように周りを巻き込むと、1人では出せない力が2倍にも3倍にもなることを経験しました。私は、アイデアを生み出す人ではありません。でも、生み出す人のことを誰よりも正しく理解して、届けることはできる。そこにやりがいを感じて、これまでずっとコミュニケーションの仕事を選んできました。

「誰かのために」を、翻訳して届ける

Q. 伝えるときに、大切にしていることは?

「翻訳」です。「それって私の生活にどう関係あるんだろう?」という身近な疑問を入り口に、具体的な言葉で伝える。一方的に伝えたいことを言うのではなく、受け取る人の目線に立って、どう伝えれば正しく理解してもらえるかを考えます。

たとえば技術展示のイベントだと、エンジニアの皆さんは伝えたいことも情報量も本当に豊かなんです。ただ、専門の外にいる人にはその価値が届きにくいこともある。そこで私たちが「この技術が暮らしのどこで生きてくるのか」という来場者の目線を持ち込むと、話が一気につながっていく。技術をつくった人の熱量も、来てくれた人の理解も、両方が立つ。その橋渡しが、広報の仕事のいちばん面白いところだと思っています。

Q. 印象に残っている出来事はありますか?

トヨタ・ウーブン・シティの公式Instagram(@wovencity_official)の運用ですね。
様子も、まだ手探りな部分も含めて出していきます。整えた説明を並べるより、見てくれる人の目線でその場の空気感をそのまま持ち帰るほうが、圧倒的に伝わるんです。少し手ブレしていても、完璧な絵が正解じゃない。それは、この仕事をして初めて分かったことでした。

ただ、その"ゆるく見える一本"の裏側は、かなり地味な確認作業の積み重ねなんです。未公開の技術が写り込まないよう画角を1センチ単位で詰める。人が写るカットは、掲載していいかどうかを一人ずつ確認する。リアルを届けることと、写っているものを守ること。どちらも同じくらい譲れない仕事なんですね。

そうして出した投稿にリアクションや「どんな場所なのか、イメージできました」というコメントが届くと、本当に嬉しいです。この街のリアルを、ちゃんと人に届く言葉に翻訳する。やりたかった仕事が届いた瞬間だな、と思います。よかったらフォローしてください!笑

(レポーターとして取材を行う岩田先生)

当たり前を、疑ってみる——社会学の授業

Q. 『社会学概論』では、どんなことを教えていますか?

1年間を通して伝えたいのは、「世の中の当たり前を、ちょっと疑ってみよう」ということです。

僕の授業では、テーマを伝えたあとにグループで話し合って、発表してもらうこともしています。

たとえば、「なぜ私たちは列に並ぶんだろう?」を議論したことがあります。誰に教えられたわけでもないのに、コンビニでも電車でも並ぶ。「なぜ?みんながやってるから?」と、そこに気づけるだけで、視点がひとつ増えているんです。

同調圧力や文化の形成という社会学の視点を重ねると、“当たり前の裏側”が見えてきます。伝える仕事では、いろんな人の視点を考えないと、物事は正しく届きません。いろんな立場・考えの人がいると理解する、その手段のひとつが社会学だと思っています。

グループワークでは「AIも使っていい」と伝えています。AIに使われるのではなく、ツールを活用して、自分の問いを立てる。生成AIの回答をそのまま正しいと受け取らず、「実は違うかも」と言えること。AIに対してだって、いい問いを立てるには、自分の中に知識や視野がないといけません。正解がない時代に何より大切なのは、問いを立てる力だと思います。

Q. 文化情報学環の学びは、社会に出てからどう生きますか?

情報がどこからでも得られる時代だからこそ、バラバラの情報をきちんと集めて、ひとつにまとめて、最終的にストーリーとして届ける。文化情報学環の理念にあるこの力は、社会に出て、そのまま使える力です。

学環のいいところは、やりたいことを「見つける場所」であると同時に、見つかったら資格や専門性でそれを「強くしていける」環境があること。この両軸は、なかなか他の大学にはないと思います。

違う価値観と、絡んでみる

Q. 学生のうちに、しておいたほうがいいことは?

自分と全然違う価値観の人とコミュニケーションを取ることを、ぜひ意識してほしいです。

私は大学時代、国際協力の団体で8ヶ月ほどインターンをして、開発途上国から来た同世代の研修生と過ごしました。僕にとっての常識が、彼らには大きな気づきで、その逆もまたしかりです。ひとつの事象も、こちらから見るとA、そちらから見るとBと、いろんな角度で物事を見られるようになったのは、彼らのおかげです。

学生には、OB訪問で目上の人に会いに行っても許される特権がありますよね。人に会うのが難しければ、書物でもいい。いろんな価値観に触れておくと、世の中を見る解像度が上がっていきます。

Q. 最後に、このページをご覧になっている高校生のみなさんへ。

未来のことは、分かりません。だからこそ、やりたいことが決まっている人はもちろん、決まっていない人にも、ぜひ来てほしいです。

「なんで?」という問いを見つけて、おもしろがりながら、最後は自分の言葉で発信していく。その思考のプロセスを一緒に楽しめる人に来てもらえたら、学環としても、僕の授業としても、すごくいいなと思います。
何かを「伝える」ことに興味があるなら、なおさら歓迎です。

※本記事の内容およびプロフィールは、取材当時(2026年7月)のものです。