文化情報学環

深掘り!文化情報学環 【学びと社会編】vol.2

 

深掘り!文化情報学環 【学びと社会編】vol.2

vol.2

情報を集め、意見を聞き、伝える力を養う。

国立科学博物館 室谷智子先生インタビュー

2026年4月に開設された文化情報学環が目指すのは、あふれる情報から自ら問いを立て、新たな価値を生み出せる人を育てること。学びの舞台は教室だけにとどまらず、情報の分析・発信の技術を土台に、企業とのプロジェクト学習や博物館等での実習まで、多岐に渡ります。
今回は、学芸員資格にもつながる「博物館資料論」などの授業を担当する国立科学博物館・室谷智子先生に、情報を「集め、残し、伝える」仕事の面白さと、これからの時代に必要な力をお聞きしました。

(国立科学博物館 室谷智子先生)

プロフィール

室谷 智子先生。国立科学博物館 理学研究部所属。専門は地震学。過去に起きた大地震を、当時の観測記録から読み解く研究を行うほか、博物館では資料の収集・保管や展示の企画にも携わる。2026年4月より東京家政大学非常勤講師として『博物館資料論』『博物館資料保存論』(いずれも3年次科目)を担当。

すす書きの波形との出会いが、人生を変えた

Q. 国立科学博物館では、どんなお仕事をされていますか?

理学研究部に所属し、地震学に関する博物館資料の由来や使い方を調べたり、昔の地震計で記録されたデータを使って、地震のメカニズムを研究したりしています。

また、地球物理学分野の資料の収集や保管、展示の企画なども行っています。

Q. なぜ地震や過去の記録に興味を持たれたのでしょう。

地震に興味を持ったきっかけは、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)でした。そして、大学時代に古い地震計の記録を見たのが、研究者を志したきっかけです。

昔の地震計は煤(すす)を付着させた紙を針で引っかいて地面の動きを記録していたのですが、見事な波形が記録されていたことに驚き、研究を続けたいと思いました。

集める、残す、展示する――博物館のリアル

Q. 博物館の「資料の収集」とは、具体的にどんなことをするのですか?

方法はいろいろです。自然史なら野外調査で生物や植物、岩石などを集めますし、地震学なら、古い地震の痕跡が地層に隠れていることがあるので、地質調査による地層の剥ぎ取りを集めることもあります。

ちょっと変わったところでは、古書店。古い地震や津波、火山、気象災害に関する資料が残っていることがあるので、古書店のカタログは頻繁に見ています。

Q. 100年以上前の地震をどうやって調べるのですか?

日本では、明治時代に近代化のために招かれた外国の科学者たちが地震計を作ったことから、データの蓄積がはじまりましたので、そういった資料が残っています。
私の研究では、地震計のデータが残る明治の中頃から昭和の中頃までをメインに、観測されたデータを使った研究をしています。

Q. 貴重な記録を未来に残すうえで、大変なことは?

保存場所の確保と、保存環境の維持です。適度な温湿度の管理が必要ですし、空調の電気代もかさみます。重要な資料はデジタルでも残していますが、オリジナルでしかわからないこともあります。

Q. デジタル記録は、「残す・伝える」ことをどう変えましたか?

私が携わってきた研究では、約20年前から、大きな地震の観測記録や資料などを高画質のデジタル画像として残す取り組みを進めています。

デジタルには、オリジナルにはつけられない音声や映像の情報をつけられる良さがあります。崩し字で読めない古い記録も、高精細な画像なら小さな文字まではっきり見えますし、音声化すれば、目の不自由な方でも内容を知ることができます。

しかし、今のデジタル媒体が100年後も使えるとは限りませんから、紙での保存も欠かせません。博物館では、紙とデジタルの良さを活かした展示をしていけるといいなと思っています。

Q. 国立科学博物館の『ディスカバリートーク』では、どんなお話をされているのですか?

私は年に3〜4回担当するのですが、地震や津波など、自然災害の話をすることが多いですね。過去の震災の節目には、「ずっと記憶に留めてほしい」という思いで過去の大地震に関連する話をすることもあります。

最近いちばん心に残っているトークの内容は、資料として寄贈いただいた、地震計につなぐ時計を展示したときのこと。博物館OBの研究者がかつてそれにまつわる研究をしていたことから、その方が展示を見て(以前研究していた資料に再会したことで)大変驚かれました。研究についての裏話も聞くことができ、思わぬところで新しい発見があったのです。

Q. 研究の成果や記録を、社会に届けることにはどんな意味があるとお考えですか?

日本は歴史的に見ても、繰り返し地震や豪雨、台風などの災害に見舞われてきた国です。「なぜそういう現象が起こるのか、過去にその場所がどのような被害に遭ってきたのか」を知ることは、次にどうしたらいいかを考えるきっかけになります。

「正しく恐れる」ことで、少しでも災害を減らすことができたらと思っています。

(国立科学博物館 日本館1階南翼に展示中の地震計(写真提供:室谷智子先生))

情報を整理し、伝える力を養う

Q. 文化情報学環では、膨大な情報を集めて整理し、自分なりのストーリーとして発信する力を育てます。先生のお仕事と重なると感じる部分はありますか?

「膨大な情報を集め、整理し、伝える」という意味では同じです。博物館では、自分とは違う専門分野の方の話が、新たな気付きにつながります。

いろんな人と交流し、情報交換をすることが大切だという点でも、文化情報学環の目指す方向と似ていると感じます。

Q. 自分の研究や学びをさまざまな人に伝える際に、どんな力が必要だと思われますか?

いちばんは、想像力だと思います。自分が知っている言葉で伝えても相手に伝わるとは限りません。相手の立場に立つ想像力や、的確に表現するための語彙力がないと、いろんな方に伝えるのは難しいです。

私自身も「どう説明すればいいんだろう」と悩むときには、対象をさまざまな側面から考えるようにしています。

Q. 情報を「集める・整える・届ける」力は、どんな進路にいきると思いますか?

世の中はたくさんの情報であふれています。ですが、それが本当に正しいのか、本当に必要な情報は何かを考えることは、どんな方向に進む人にも必要なことです。

自分と相手、お互いにとって本当に必要なことを見抜く力を養うことが重要だと思います。

Q. 情報を見抜く目は、どうすれば育ちますか?

物事に対して「本当にそうなのかな」と、ちょっと“ハテナ”を持つことです。世の中の情報がすべて正しいと思うのではなく、一瞬ハテナを考えてみることが大切です。

研究でも「こういう結果が出ました」という話に疑問を持つ人がいるからこそ、そこからまた新たな研究が発展していきます。とくに今の時代は、インターネットの情報にはハテナを持っていてほしいと思います。

想像力が人生を変える

Q. 文化情報学環の学生に伝えたいことは?

私は、異なる分野の人とたくさん接してきた経験が今の仕事に生きています。多様な分野の人が集まる文化情報学環は、とても恵まれた環境です。ぜひ、幅広い分野の方々と話をしてください。

これからの世の中は、いろんな人とのつながりがより生きてくると思います。

Q. 最後に、このページをご覧になっている高校生のみなさんへ。

博物館や美術館にたくさん出向いて「想像する力」をつけてください。授業で聞いた話が頭に残った状態で展示を見ると、「こういう意図が裏にあるのかな」と、これまでとは違った見方もできると思います。

ぜひ、たくさんのことに興味を持って、たくさん経験して、これからの進路に生かしてください。

※本記事の内容およびプロフィールは、取材当時(2026年7月)のものです。