文化情報学環

深掘り!文化情報学環 【学びと社会編】vol.1

 

深掘り!文化情報学環 【学びと社会編】vol.1

vol.1

つながりが、
まちの価値を育てる。

野村不動産 飯田麻衣さんインタビュー

2026年4月に開設された文化情報学環が目指すのは、あふれる情報から自ら問いを立て、新たな価値を生み出せる人を育てること。「人と人」「人と社会」のつながりを学び、ウェルビーイングな社会の実現に向けて何ができるかを考えていきます。
今回は、連携が始まっている野村不動産株式会社 事業創発本部 エリアマネジメント部の飯田麻衣さんに、つながりをデザインする仕事と、学生時代に大切にしてほしいことをお聞きしました。

(野村不動産株式会社 事業創発本部 エリアマネジメント部の飯田麻衣さん)

プロフィール

野村不動産株式会社 事業創発本部 エリアマネジメント部。「プラウド」ブランドで知られる大手デベロッパーの中で、開発後のまちのコミュニティづくりを担う部署。マンションの一角にコミュニティ施設を設けるエリアマネジメントの仕組み「Be ACTO(ビーアクト)」(日吉・亀戸・目黒・武蔵浦和など)と、まちへの愛着を育む教育プログラム「まちとまなぶ」(まちをみるめ・推しの木・まちおに)を展開。Be ACTO日吉は2023年度グッドデザイン賞を受賞している。
飯田麻衣さんは入社2年目。武蔵浦和・亀戸のコミュニティ施設運営と、教育プログラムの企画・実施を担当。

街は、建てて終わりじゃない

Q. エリアマネジメント部は、どんなお仕事をしているのですか?

開発後のまちで、そこに住む人や集う人が「まちを好きになれる」ような取り組みをしています。柱は2つあります。ひとつは、コミュニティ施設の運営。マンションの一角にいろんな人が集える場をつくり、地域住民や行政、学校、企業がつながって、協業や共創を生み出すハブの役割を担っています。

もうひとつは、教育プログラムの展開です。自分たちの住むまちをより良くしていく気持ち——「シビックプライド」を育む出張授業を作り、発信しています。私はそのなかで、武蔵浦和と亀戸の施設運営と、教育プログラムの企画・実施を担当しています。

Q. 不動産会社が、なぜコミュニティづくりや教育に取り組むのでしょう?

建物を作って売ったり貸したりして終わり、ではなく、作った後にその街を好きになってもらいたいからです。外に出ても、また戻ってきたくなる魅力をつくる。長期的には、まちの資産価値が上がっていくことも目指しています。

たとえば亀戸の拠点がある商業施設「カメイドクロック」は、時計で知られる第二精工舎(現・セイコーインスツル)の工場跡地に建っていて、名前にもその歴史が生かされています。土地の歴史を継承しながら、新旧の住民が融合して新しいことをやっていく。それがデベロッパーの使命のひとつだと思っています。

「やってみたい」を、形にする

Q. 飯田さんが携わる「Be ACTO」とは、どんな取り組みですか?

住民・企業・行政・学校など、多様な主体がまちづくりに参加できるオープンコミュニティです。拠点となる「マチノバ」、現地の運営法人「ツナグヒト」、連携する企業「パートナー」の3点セットは共通で、あとは物件ごとの特色を生かして運営しています。「まちを良くしたい」と思う人が、小さな一歩から関われる仕組みです。

大切にしているのは、その人の「やってみたい」をどう実現できるかを一緒に考えて、伴走すること。まちで何かをやってみたいと思った人が途中であきらめてしまわないように、実現までをサポートしています。たとえば武蔵浦和では、カレー屋さんをやりたいという方を運営法人がサポートして、施設の一角で週に1回カレーを提供するまでになりました。いまはご卒業されましたが、その後も関わり続けてくださっています。

Q. 人と人がつながって、何かが生まれた瞬間はありますか?

常にその連続ですが、印象的だったのは日吉の綱引きイベントです。現地の運営法人・認定NPO法人びーのびーのさんが毎月開いている「コーヒーミーティング」(コーヒーを飲みながら、やってみたいことを気軽に話し合う場)で「綱引きをやりたい」という声が上がり、マンションの広場で本当に開催したんです。準備では、ボランティアでハチマキを縫ってくださる方も現れました。人が集まるか心配していたのですが、当日は30名近くが参加して大盛り上がりだったんです。

自分が頭を悩ませて頑張った成果が、人の喜ぶ顔として間近に見える。それがこの仕事のいちばんのやりがいです。

Q. 企画のほかに、実務的なお仕事もあるのですか?

各拠点では、一般社団法人を設立して運営しています。そうなると、ある程度の会計の知識は必要ですし、総会や理事会も、規則を確認しながら開催しなければいけません。パートナーのテナントさんとの賃貸借契約を、法務に相談しながら作っていくこともあります。どれも、私自身まったく触れたことのない分野だったので、規約を見るなど、自らインプットしていかないと運営は回らない。本当に幅広くて、日々学びですね。

「推しの木」から始まった、家政大とのつながり

Q. 東京家政大学との連携は、どのように始まったのですか?

きっかけは、小学校向けプログラムの「推しの木」です。子どもたちが自分の“推しの木”を見つけて調べ、推しうちわを作って発表する授業で、2024年から板橋区内の小学校で行っています。作品を板橋区で展示したり、区の「SDGsプラットフォーム」に記事を掲載していただいたりするうちに、それをご覧になった文化情報学環の和田先生からご連絡をいただいたんです。

まずは推しの木で何かやってみようと、和田先生や学生さんと一緒に、東京家政大学のキャンパス内で推しの木探しのイベントを行いました。学生さんが小学生をフォローしながら一緒に木を探して、作品は十条駅前の公共施設に展示されました。その後、建築史がご専門の和田先生が推しの木をアレンジした「街の推し」という取り組みも進めてくださっていて、「推しの建築」もできたらいいね、と話しているところです。

(「推しの木」の様子)

Q. 「まちとまなぶ」のプログラムに共通する発想はありますか?

まちや自分の周りの環境を観察して、発見を促すことです。「まちをみるめ」は、お年寄りや小さな子どもを連れた人など、他者の目線になりきってから、自分のまちを見ていく。「まちおに」は、みんなが楽しめる鬼ごっこを子どもたちの創造性で考える。今まで意識していなかった、まちの中の小さな気づきを拾い上げて、学びや活動に変換するプロセスを大切にしています。

推しの木の授業では、「インフルエンサーのさくらさんが好きだから」と、学校の桜を推しの木に選んだ子もいました。導入は何であれ、自分の“推し”とまちがつながる。それがいいなと思うんです。

行動量が、「人をつなぐ力」になる

Q. 文化情報学環の学びと、重なる部分はありますか?

「人と人」「人と社会」のつながりは、まさにエリアマネジメントの本質そのものです。街の価値は建物そのものではなく、そこに集まる人々の関係性から育まれると、私は考えています。だからこそ、文化情報学環で学ぶ「つながりを理解し、そこから何ができるかを考える力」は、大きな可能性を持っていると感じています。

Q. つながりを作る上で、意識すべきことは?

住民の方に活動を伝える場面、企業と協働する場面、行政と調整する場面——人とのつながりの中では、どんな状況でも伝え方が結果に大きく影響します。やりたいことがあるとき、目指すゴールがあるときは「なぜそれをやるのか」というストーリーを共有できると、人は動きやすくなると思います。

Q. 学生のうちに、しておいたほうがいいことは?

自分の価値観を広げるために、行動量を増やすことだと思います。私は大学時代、よさこいに熱中していました。3年生のときに単独公演の統括を任せてもらい、みんなで空間をつくることの楽しさが強く記憶に残っています。ただ、イベントは一瞬で終わってしまって、その価値が続かない寂しさも感じていました。だから、建物とともに続いていく空間をつくるデベロッパーは、自分の経験と感情にマッチした業界だと思ったんです。いまは、コミュニティ施設という「毎日あり続ける空間」を起点に仕事ができていて、やりたかったことが少し叶っています。

もちろん、ひとつのことを深く極めて得られる視点もあります。大切なのは、どちらのスタイルでも、何かに気づこうとする姿勢を持って、貪欲に経験を自分の中に取り込んでいくこと。その積み重ねが、知らず知らずのうちに「人をつなぐ力」になっていくと思います。

最後に、このページをご覧になっている高校生のみなさんへ。

私は新卒2年目で、まだ分からないことも多いのですが、周りの方々に支えられて、学生時代に想像していた以上に毎日楽しく仕事をしています。それでも、大学生の頃は格別に楽しかったなと感じますし、これから進学を考えるみなさんを、とても羨ましく思います。

最後の学生時代をどう過ごすかは、本当に自由です。その時間が将来の力につながるような活動をひとつでも見つけて、思いきり取り組んでみてください。その経験は必ず、どこかのタイミングで自分を支えてくれるはずです。進路も、その後の活動も応援しています。

※本記事の内容およびプロフィールは、取材当時(2026年7月)のものです。